介護をしていると、誰にも言えない寂しさがあります。
毎日食事を作るのも私。
病院へ付き添うのも私。
夜中に何度も起きるのも私。
それなのに、たまに来る看護師さんやヘルパーさんには、満面の笑顔。
「ありがとう。」
「あなたは優しいね。」
そんな言葉をかける一方で、私には、
「遅い。」
「気が利かない。」
「ヘルパーさんの方が優しい。」
そんな言葉ばかり。
介護をしている方の中には、
「どうして家族の私にはこんな態度なの?」
「私より他人の方が大切なんだ……。」
そう感じて、胸が締めつけられた経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
実は、介護を受けている親が家族には厳しく接し、看護師さんやヘルパーさんには穏やかに接することは、決して珍しいことではありません。
もちろん、すべての方に当てはまるわけではありませんが、老いや病気による心や脳の変化、そして家族だからこその心理が関係していることがあります。
私自身、このことをもっと早く知っていたら、もう少し自分を責めずに済んだかもしれません。
親が家族にだけ怒るのは何故?
私も父と母を長年介護しました。亡くなる前には二人とも認知症の症状があり、毎日介護を続ける中で、
「どうして私じゃないの?」
「私より他の人の方が好きなんだ。」
そう思い続けていました。頑張れば頑張るほど、心は少しずつ傷ついていきました。
でも、介護について学ぶ中で、私はある心理学の考え方に出会いました。それが「安全基地(Secure Base)」という考え方です。
人は、本当に安心できる相手だからこそ、弱音を吐いたり、怒ったり、甘えたり、感情をぶつけたりすることがあります。
子どもが保育園では頑張っていても、家に帰ると泣き出すことがあります。大人でも、職場では笑顔なのに、家では疲れ切って何も話せなくなることがあります。
それと少し似ています。家族だからこそ、心のブレーキが外れてしまうことがあるのです。
介護を受けている親が家族に厳しく他人に優しい理由
老いや病気によっては、記憶だけでなく、感情のコントロールや状況を整理する力にも変化が起こることがあります。
また、その時その場の安心感や不安が、言葉や態度に大きく影響することもあります。
短時間だけ関わる看護師さんやヘルパーさんには、「よそ行き」の笑顔で接することができても、一日中そばにいる家族には、不安や怒り、戸惑いを、そのまま向けてしまうことがあります。
もちろん、看護師さんやヘルパーさんは、お仕事として本当に優しく接してくださいます。一方で、家族は二十四時間介護を続けることもあります。
疲れがたまる日もありますし、心に余裕がなくなる日もあります。だからといって、あなたの介護が足りないわけではありません。家族だからこそ起きやすい心の動きがあるのです。
介護者が自分を責めないために知っておきたいこと
もし介護をしていたあの頃の私が、このことを知っていたら、もう少し心が軽くなっていたと思います。
「私の介護が悪いんだ。」
「私は愛されていないんだ。」
そう思わずに済んだかもしれません。
介護には、食事や排泄などの技術だけではなく、介護者自身の心を守る知識も同じくらい大切なのだと思います。
「親は私を嫌いになったわけではない」と覚えておいてほしいこと
もし今、親の言葉に傷ついているなら、どうか思い出してください。親の態度だけで、あなたの価値は決まりません。親が他人に笑顔を見せたからといって、あなたへの愛情まで消えたわけではありません。
老いは、人の心や脳にさまざまな変化をもたらします。そして、その変化は、人との接し方や感情の表現にも影響することがあります。だからといって、それはあなたという存在を否定しているわけではありません。
介護は、親を支える時間であると同時に、介護者自身の心を守る時間でもあります。どうか、自分を責めないでください。もし責めたくなったら、心の中で、こうつぶやいてみてください。
「これは私が嫌われたからではない。老いや病気という大きな変化の中で起きていることなのかもしれない。」
その一言が、今日のあなたの心を、少しだけ軽くしてくれることを願っています。


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